今、若者たちへ-君に伝えたい私の経験-
今、若者たちへ−君に伝えたい私の経験−<広告企画>

君に伝えたい私の経験 

第35回 和地孝・テルモ会長

  • 更新日:2008-01-28

人生にはたったひとつの無駄もない
無駄になるのは経験から学ぼうとしないから


 和地孝氏
わち・たかし 1959年富士銀行入行。88年同行取締役。89年テルモ常務、95年社長。2004年から会長

 経営難にあえいでいたテルモに銀行から転じ、「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念の徹底と、人を育てる経営に基づいて企業風土を改革、顧 客から高い評価と信頼を得て再び優良会社に育て上げた和地孝テルモ会長。どんな境遇にあっても自分を甘やかさず、常に高い志を持って自分を磨いていくことの大切さを語りかける。

■小学4年生で迎えた終戦経験が原体験に
 私は第2次世界大戦の終戦を小学校4年生のときに迎えています。日本はこのとき歴史観を含めすべての価値観が大きく転換しました。私たちの世代は終戦を挟み、そ れまで金科玉条に思われていたことが全く価値のないものに変わったのを見てしまった世代です。この経験は、私にとってとても大きなものでした。価値とは絶対的なものではなく、時 代により変化するということを教えられたからです。

 私はこうした体験を持つため、常に時流に流されず自分の頭で考える「自流」で時代の価値を計ることにしています。戦後的なものや現在の価値観をそのまま信じることもしません。例えば今、日 本は市場原理を最高の価値とし、ともすればお金だけを稼げばそれでいいという風潮がまん延していますが、それはちょっと違うなという気がしています。資 源がほとんどない日本が世界第2位の経済大国になっているのは、それぞれの企業が業績を上げるのはもちろんですが、何よりも日本人がお互いに助け合い、少 しでもよい社会をつくろうと努力してきたからではないでしょうか。

 若い人には、市場原理主義のマネー優先だけではない、社会や他人に対して自分に何ができるかということを、もう一度考えてほしいと思います。それと同時に、片方では時代を超えた普遍的な価値、真理、 美などを追求してほしい。若い人が忙しくて本も読めないなどというのはうそです。私はどんなに忙しくても、時間をつくってクラシックの音楽会に出かけます。読書をします。いい映画を見ます。一 流の芸術に接することで、永遠普遍の価値とは何かを考えることができるからです。

■つらい体験ほど後から仕事に人生に役に立つ
terumo_Subph
1979年、ハ ーバードビジネススクールの校舎前でクラスメートと(前列右端)

 より身近な現実的な経験についてお話しすると、私はテルモに移ってくる前に富士銀行(現みずほ銀行)に勤めていましたが、若いころ英会話もほとんどできないのにアメリカの「ハーバード・ビジネス・ス クール」にいきなり派遣されました。世界のトップクラスのビジネスマンに混じって、朝から晩まで猛特訓を死に物狂いでこなしました。

 3カ月間で修了してやれやれと思ったら、そのままニューヨークオフィスに勤務しろという。しかもテリトリーは南米のアルゼンチン、ブラジル、チリまで含まれる広大なものでした。実際、南 米に行ってみると、英語など通じず、スペイン語とポルトガル語です。それでも何とか仕事をやり遂げましたが、この経験で、もう怖いものなどない、矢でも鉄砲でも持ってこいと度胸がつきました。

 テルモに移ってから、ヨーロッパにあるテルモの6つの拠点を1人で、1週間で回る仕事を命ぜられました。フランス語などまったくできないのですが、南米での経験があったからこそ、こ のハードな仕事も無事こなすことができました。

 今、若い人は「楽」を求めようとしているように見えます。しかし私の体験では、「楽だな、いいことやらせてもらっているな」という経験は、その時は楽しくても、後であまり役に立ちません。「 何でこんなことをやらされるのか」という経験の方がよほど役に立ちます。ですから、たとえつらい経験をしても、無駄な経験は一つもないと思ってほしい。無駄な経験にしてしまうのは、そ の人が経験から学ぼうとしないからです。

 若い人は、自分の経験を財産として、仕事に一生懸命取り組んでください。仕事は自分を磨き、輝かせるものであり、夢を実現するものです。

 医療機器メーカーであるテルモの社員は、「医療を通じて社会に貢献する」という信念で仕事をしています。ある社員は真冬の北海道で真夜中に緊急オペのため、救 急用人工心肺を持って病院にかけつけます。また、ある若い社員は沖縄で毎朝5時に起き、病棟に出かけて患者さんに声をかけている。それは給料を上げてもらいたいからそうしているわけではなく、社 会への使命感からの行為なのです。「患者さんからありがとうといわれると疲れも吹き飛びます」と、彼らは話してくれます。

 経営者にとって人を育てることは最も重要な務めであり、こうした声を聞くと若者もがんばっているなとうれしくなります。苦しい体験を楽しい体験と受け止められること、そ れは人の成長の証しだと私は思っています。