今、若者たちへ-君に伝えたい私の経験-
今、若者たちへ−君に伝えたい私の経験−<広告企画>

君に伝えたい私の経験 

第21回 野田順弘・オービック会長兼社長

  • 更新日:2007-12-17

問題から逃げず、本質を見抜く
好機と思ったらチャレンジ


 野田順弘氏
のだ・まさひろ 1957年近鉄百貨店入社 。61年関西大学卒業、62年東京オフィスマシン入社。68年大阪ビジネス設立、74年オービックに社名変更。 2000年東証1部上場

 成長戦略の基礎を人材育成に置くオービック会長兼社長野田順弘氏は、大学は夜間部に通い、早くから働く人の気持ちをつかめたことが、自分の人生に大きな意味を持ったという。問題から逃げず、働 くとは、挑戦するとは――IT(情報技術)業界の草分けで東証1部上場を達成した野田氏のメッセージは、自分探しの若者にとっても示唆するところが多い。

■学歴主義の会社に不満 流した汗を信じて挑戦
 私は奈良県の農家の次男に生まれ、高校を卒業すると学費を稼ぐために大阪の百貨店に就職、大学は夜間に通い経済学部を卒業しました。周 りは働きながら勉強している人たちばかりでみんな真剣でしたから、社会で働く人たちの気持ちが早くからつかめた。これは私の人生にとって非常に大きな意味があったと思っています。

 百貨店では事務機売り場を担当しましたが、ある時、会計機を販売しようということになりました。何でも取り扱える百貨店として外資系メーカーと交渉しますと、「直接販売しかしない」と いわれ大変衝撃を受けました。この体験が、創業に結びついたわけですが、また一方で、自分は他の人より業績を上げているのに、給料や地位では、大学の昼間部を後から卒業した人が私の上にくる。こ れはどう考えてもおかしいと思い、百貨店を辞めました。

 そこで会計機販売に思いっきり力を入れてみようと考え、西ドイツ系会計機メーカーに転職しました。毎日30件くらいの飛び込みセールスをして顧客の開拓をしました。百 貨店では放っておいても顧客が来てくれましたが、こちらはブランドもない会計機メーカーですから本当に苦労が多かったです。そのころ、日本やアメリカの会計機メーカーが次々に現れたのですが、顧 客にとって他のメーカーの製品がいいと思っても、それを売ることはできませんでした。また会社が小さいこともあり、いったん売れなくなると、ボーナスは出ない、給料は遅配と、非 常に浮き沈みが大きいことがわかりました。

 そこで家内と2人で会計機販売会社を興したのがオービックの始まりです。ほかの会社に就職せずに起業したのは、一つには、これまでに覚えた仕事を生かしたかったし、情 報システムはあらゆる企業の経営を支える、将来非常に有望な分野であると考えていたからです。もう一つは、人生一度なのだから可能性に賭けてみようという気持ちが強かったのです。「これはいける」と みたら思い切って追求する。チャレンジ精神は、経営者でも一般社員でも大切だと考えています。

 オービックは会計機から情報システムを扱う企業へと発展してきたわけですが、私が技術の専門家でないために困ったということはありません。情報システムやサービスを売る仕事の基本は、お 客様がどんな問題を抱えているか、よく話を聞き、「それならばこうした方がいいですね」ということをお客様と一緒に考えることです。これはかつて会計機を売ったころの基本と全く変わっていません。オ ービックが激しい技術の変化に取り残されず、うまく時代の流れに乗り成長できたのは、この基本からはずれることなくやってきたからだと考えています。

 会社を設立し1部上場までもってくるまでにはいろいろ苦労もありましたが、仕事に困難や苦労は付きものです。どんな仕事でも、それを成し遂げるには、苦 労を苦労と思わないで乗り越えていくという部分は必要です。

 思い返せば、創業してしばらくの間は資金繰りに苦労しました。手形を割り引かなければ社員にボーナスが払えない。銀行は実績のない中小企業に手形割引などしてくれませんでしたから、お 客様に割引をお願いしたこともありました。それは断られましたが、その会社の経理部長が私を信用してくれて、個人で割り引いてくれたこともありました。そういう経験を通じていま強く思うのは、ビ ジネスに携わる者にとって信用はこの上なく大切だということです。

 企業も人もいろいろな困難に遭遇し、それを克服して初めて成長があります。そこで一番重要なのは本質を見抜く能力です。最近はコミュニケーション能力が大切だとよくいわれます。しかし、い わゆるおしゃべりのようなコミュニケーションだけでは口先で終わってしまうことが多く、本質までは伝わりません。本当のコミュニケーションとは、現場で汗を流し実体験することで、自身の心・技・体を磨き、そ こからくる判断力で本質を見抜き、発信することが必要です。

 プロ野球の故仰木彬監督から「信汗不乱」という言葉を教わりました。一生懸命流した汗を信じれば、心乱れず道は開けるという意味です。この考え方は、スポーツだけではなく、ビ ジネスにも通じると思います。

 私は常日ごろ社員に対して、「仕事は会社のためにやるのではない、自分のため、自分の能力や価値を高めるためにやるんだ」ということを強調しています。そうすれば会社の業績も上がるのです。オ ービックは来年創立40周年を迎えますが、10年ぐらいのレンジで見ると、人材が成長したときに会社は一番伸びるという傾向がはっきり出ています。

 私は「含み経営」という言葉もよく使います。「含み」とはお金や資産などのことだけではありません。企業の成長は人材の成長に尽きます。人材の成長は数字では表現
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社員を一から育てる家族主義経営が持ち味
できませんが、その成長の可能性こそ、企業の「含み」資産として大切にしているのです。

 要するに私の成長戦略の基本は人材を育てることです。オービックは創業以来、社員は全員新卒採用です。これは、一 から育てることによって一人ひとりが自己の可能性に挑戦していく社員になってもらうためです。「植木から育てるより、種から育てたい」私はオービックをそういう環境の企業にする努力をしています。学歴・経 歴だけで処遇が決まってしまうような企業には決してしません。

■視野狭いまじめ人間より柔軟なふまじめ人間
 人材が何よりも大切ですから、採用試験の最終面接は必ず私が行います。そこで私が求めるのは「ふまじめ人間」です。まじめ人間はとかく一つの方向にばかり目が行きがちですが、ふ まじめ人間は上下左右に目が行き、考え方が柔軟で対応力があるからです。それでアタマが良ければ申し分ありません。

 そういう人材をいかに育てるか。これは育てるというより、育つ環境を整えることが大切だと考えています。そのために会社は、フラットでオープンで、言いたいことが言える雰囲気、挑 戦できる風土がなければいけません。処遇は年功序列ではなく業績や能力を重視しますが、いわゆる成果主義ではありません。そこに至るプロセスをきめこまかく評価します。マーケットや技術の動向をよく見て、課 題に挑戦する。挑戦して本当によかったと思える社員を増やせばオービックも成長するのです。

 先日、通算3000勝を達成した武豊騎手と食事したとき、「3000勝できた要因は何ですか」とお聞きしたところ、「馬の気持ちが分かることです」という答えが返ってきました。仕 事の環境は違えどこの言葉に私は非常に納得しました。経営者も社員も、これと全く同じだと思ったのです。

 経営者は社員の気持ちが分からなければ、やる気を起こさせることはできません。社員も同僚やお客様の置かれている状況や気持ちが分からなければ、問 題を発見したりいいソリューションを提案したりすることはできません。

 人間は個別的な問題をたくさん抱えていますから、そこを理解せずに、一つひとつ「ああしろ」「こうしろ」と小突き回しても、いい結果にはつながりません。それより「おい、元気にいこうや」の 一言の方が、小さな問題を乗り越えて前に進む勇気を起こさせるのです。それには、社内に人間を大切にする雰囲気、何かに挑戦して失敗しても、挑戦したことを褒めて勇気づけてやるような企業風土が必要です。

 そのために、いろいろな努力をしています。専務には、1日200人ぐらいの社員に声をかけさせています。私も「散歩経営」と称して現場をよく回ります。「おい、どうや」と 声をかけながら社内を回ると、空気が読めるのです。経営者としてその現場に何が必要か。部長、課長、部員がどんな気持ちでいるか。そういうことまで感じ取ることができます。

 そういうわけで、オービックの経営は「家族主義」と言われることもしばしばです。社員が持てる力をフルに発揮できるようにするためにあらゆる工夫をする。それが家族主義経営の中身です。そ こに向けて私は、あせらず、あわてず、あきらめず、あかるく、かつ問題から決して逃げることなく、日々の仕事に取り組んでいます。完成と思えば成長なし。毎日がイノベーションへの挑戦です。こ れを若い方々にもおすすめします。

Kokoroe