File.2 株式会社損害保険ジャパン

社員の声を生かし 女性が活躍できる
自社独自の制度を整える

白石男女雇用機会均等法が施行されてから20年以上たちますが、日本ではまだ女性の労働環境が十分に整備されているとは言えません。そんな中、損保ジャパンでは、女性が活躍できる環境をつくるためにいろいろな施策を始めているそうですね。そのきっかけになったのは?

佐藤当社は、2002年に、大成火災、日産火災、安田火災の3社が合併して誕生しました。合併のときの理念としたのが、出身会社などにとらわれない自由闊達(かったつ)な社風をつくろうということです。今で言うダイバーシティ(多様性の受容)ということですね。
 とくに力を入れたのが、女性社員が活躍できる環境を整えること。その理由は、当社はもともと女性社員の比率が高く、全従業員の約6割が女性です。その大半が当社で業務職と呼んでいる事務職です。合併当時、業務職の多くは、結婚して子供が産まれると退職するケースが多かったのですが、そうした女性たちの中にも、出産後も復帰して働き続けたいと希望する人が、年々増えてきました。
 業務の高度化などもあり、女性社員に活躍してもらうことは、経営の大きな課題でもありました。それぞれの価値観に合わせて、女性が自分の力を十分に生かしながら、いきいきと働けるようにとの方針の下、社内制度の整備を進めてきたのです。

白石そうした取り組みは、通常、人事部門などが中心となって他社の事例などを参考にしながら制度を作るなど、トップダウンによる働きかけで行われることが多いのですが、損保ジャパンではいかがでしたか?

佐藤会社の置かれている環境や規模などによって有効な制度は異なり、自社に合った仕組みを作ることが大切だと思います。当社では自主的な活動を尊重しました。
 02年にまず行ったのが、女性社員が、本来業務とは別に自主的に運営する、女性の働き方を考えるための組織を立ち上げることです。
 その組織「ウィメンズコミッティ」(07年から「ダイバーシティコミッティ」に名称変更)の提案に基づき、03年には日本の金融機関で初めて、人事部内に女性活躍推進の専門部署である「女性いきいき推進グループ」を設置しました。その後、全国を網羅する組織としての「全国ウィメンズコミッティ」を立ち上げました。
 これらの取り組みは、社員の自主運営組織と人事部門の専門部署とが連携しながら制度を見直すことで、より効果的な施策を実行することを狙いとしています。

白石社員の声を直接聞いて、施策に落とし込んでいるのが特徴ですね。

佐藤社員はいろいろな価値観を持っていると思いますが、とくに女性には「バリバリ働いてキャリアアップしたい」という人もいる一方で、「家庭も仕事も充実させて、自分のペースで働きたい」という人も多くいます。こうした多様な声に応えるためには、やはり女性自身が中心となって制度の整備に取り組むことが大切だと思います。

白石具体的には、女性が活躍しやすい環境をつくるためにどのような取り組みをされてきたのでしょうか?

佐藤推進の柱としては、まず、仕事と家庭の両立支援があります。ウィメンズコミッティなどによる社内のネットワーク組織を利用して、制度の見直しを進めました。
 育児休業制度の見直しはその1つで、子供が1歳になった年の翌年4月末まで取れるようにしました。これは、大都市圏では4月でないと保育園に入りにくいとの社員の声に応えたもので、子供を預けやすい4月になって職場復帰できるようにとの考えからです。その結果、取得者は、活動を始めた02年度に比べて、06年度には4倍近く増加しました。
 育児のための短時間勤務も見直しました。もともとは小学校就学前まで取得可能でしたが、「保育園と違って早く帰宅するため、小学生になってからの方がむしろ短時間勤務が必要」という社員の声を受けて延長したのです。その結果、こちらも06年度、61人が利用しています。
 キャリアトランスファー制度というものも、06年から実施しています。これは、転居転勤のない職種である業務職が、配偶者の転勤などの理由で転居を希望する際、転居先の勤務地で働けるようにした制度です。
 これにより、今まで退職せざるを得なかった社員が、そのままキャリアを継続することができるようになりました。06年度の1年間に、31人が新しい勤務地で勤務しています。夫の転勤だけでなく、両親の介護などで、この制度を活用している人もいます。

多様なキャリアコースを用意し
意欲と能力に応じた選択ができる仕組みを

白石意欲と能力はあるけれど、限られた範囲の仕事しか経験がないという女性に、より責任ある仕事を任せることも必要になってくるでしょうね。

佐藤その通りです。そのため、業務職が継続的なキャリアアップを図れるよう、上級役職の新設などを進めています。
 05年に業務職のキャリアモデルとして設置した「業務リーダー」は、それぞれの職場でリーダーシップを発揮する人材の育成が目的です。毎年70―80人登用し、すでに270人の業務リーダーが誕生しています。
 07年10月からは、さらに上級職の「業務リーダー課長」も新設しました。業務職にマネジメント業務という新たな活躍の場を提供することが目的で、人事評価や労務管理も担います。
 現在の職場で3年以上勤務した社員が、自分の希望する部署に手を挙げてチャレンジできるジョブチャレンジ制度(社内公募制度)も始めました。年1回の公募があり、年々公募ポジションも応募者数も拡大しています。
 また、業務職にとどまらず、総合職に移るコース転換制度も設けています。業務職の中には、幅広い業務を担い転居・転勤を伴う総合職に移ることに不安を感じる人もいます。そこで、業務職という職種のまま半年間総合職の仕事を行い、その結果を自分で判断して、総合職に転換するか業務職のままでいるかを選択できるコース転換トライ制度も立ち上げました。
 制度の目的は、キャリアアップを目指す業務職がチャレンジしやすい環境をつくると同時に、登用の予備期間を置くことで、不安を感じることなくステップアップしていける土壌を作ることにあります。

白石いきなり本免許をもらって高速道路に出るのではなく、仮免許があるということですね。

佐藤そうです。本当は、能力とやる気のある人に仮免許は要らないのかもしれないのですが、トライアル期間を設けることで、いきなり重責を与えるのではなく、現場で総合職としての教育をじっくり行いながら徐々にシェルターを外していけることはメリットでもあると思っています。今回新設した「業務リーダー課長」の登用の際にはその上司も呼んで、女性管理職育成のための研修を行います。これもシェルターの1つです。

お客様志向のけん引役として
女性社員の知恵に期待
 「これからも女性が活躍できるフィールドを拡充していく」と語る佐藤社長

白石さまざまな取り組みをされているわけですが、制度を作っても、実際に活用されなければ「絵に描いたもち」になりかねません。

佐藤そうならないためにも、社員の意識変革が重要だと思っています。社員の自主組織であるウィメンズコミッティによる活動が5年を経過し、継続した活動によって、少しずつではありますが、性差にかかわらず多様な働き方を認める意識が浸透してきています。
 また、社内では機会あるごとに、女性社員の登用に関し、経緯や登用人材案について私から説明しています。こうしたトップからのメッセージが社員の意識改革に効果を上げていると思います。

白石社員の家族に、「損保ジャパンを知ってもらおう」というイベントもあるそうですね?

佐藤はい。今年新たに、ワークライフバランス(仕事と家庭の調和)の意識改革を行う取り組みとして、社員の子供やご家族を対象とした会社見学会を開催しました。本社では、1週間で社員を含め約600人が参加する大掛かりなイベントになりました。社員それぞれが、ワークライフバランスを考えるよいきっかけになったと思います。

白石損保ジャパンとしては、社員一人ひとりが仕事とプライベートを充実させながら輝いてほしいというメッセージになりますね。

佐藤ええ。充実した家庭生活やプライベートは、生きる意欲や創造力を高め、人間としての成長にもつながります。仕事以外の生活が充実することは、仕事の充実にも影響を与え、好循環が生まれると思うのです。

白石好循環といえば、企業の業績と女性管理職登用率も相関関係があるとの指摘が、研究者の間でされています。経営の視点から、とくに女性に期待することは何でしょうか?

佐藤私どもの商品である火災保険や自動車保険も、契約者名は男性でも商品選択の主導権は女性が握っているというデータもあります。今後ますますお客様志向が問われる中で、女性の視点が欠かせません。女性社員の知恵や視点に基づく提案を引き出すことが会社経営にとっては大切で、業績の向上にも直結する問題だと思っています。
 そのためには、マネジメント層に入る女性をもっと増やして、顧客戦略のかじ取りを担ってもらうことが今後ますます重要になると思います。

ゲスト

佐藤正敏氏

株式会社損害保険ジャパン取締役社長

佐藤正敏氏


1972年慶応義塾大学経済学部卒、安田火災海上保険入社。94年山梨支店長、97年情報システム部長、99年社長室長。2000年取締役。02年損害保険ジャパン取締役常務執行役員を経て、06年から現職。

聞き手

白石真澄氏

関西大学教授

白石真澄氏


1958年生まれ。関西大学大学院修士課程修了。ニッセイ基礎研究所で少子高齢化・バリアフリー・地域システムを研究。2002年、東洋大学経済学部助教授、06年同学部教授を経て07年から現職。内閣府の構造改革特区推進本部評価委員、少子化社会対策検討委員なども務める。

協賛企業:
講座協力:東京21cクラブ