第9回(2008年2月4日開催)

世界がフラット化する時代のリーダーに求められる深い教養
高いビジョンと正しい意思決定が組織を持続的成長に導く

環境変化に対処し、組織を変革
一條和生氏

今日はリーダーシップの基本とフラット化する世界(※1)で求められるリーダーの要件についてお話ししたいと思います。

組織の使命は持続的な成長を達成すること。これを危うくする要因に対処する上で不可欠なのがリーダーシップとマネジメントです。持続的成長を危うくする要因には大きく3つあります。内部複雑性の増大、外部環境の変化、そして特定の人材が成長源となる属人性です。

社員の増加や事業拡大など、組織の成長とともに増大する複雑性にうまく対処していかなければ、事業は混乱状態に陥ります。変化に対応して組織を変革できれなければ、やがて経営は行き詰まる。こうした複雑性や環境変化への対応を特定の人材に頼っていては持続的成長は望めません。

このうち、内部複雑性に対処するのがマネジメント。環境変化に対応し組織を変革に導くのがリーダーシップ。高いリーダーシップとマネジメント能力を持つ人が次々と生まれてくるよう人材育成に努め、属人性に対処することも重要です。

マネジメントは職位階層と結びついた概念ですが、リーダーシップは階層とは一切無縁です。外部環境の変化に対応した変革は様々なレベルで可能。変革の先頭に立てる人材があらゆる職位階層にいることが組織の理想形です。リーダーシップはあらゆる人にあります。若手社員でもリーダーになることはできる。自らのポテンシャルを自覚し、それそれが日々の仕事で意識的に磨いていくことが大切です。

変革の方向性やビジョンを設定することがリーダーの第1の仕事。これを実現するために必要な予算や計画を立案するのがマネジャーです。第2の仕事はメンバーのベクトルを合わせるためのコミュニケーション(※2)。方向性を伝え、納得してもらい、共有されたビジョンを実行に移すためのイニシアチブを起こす。どんなに熱くビジョンを語っても、相手が行動を起こさなければコミュニケーションできていないのと同じです。人を動かすのはリーダー、人が動きやすい組織作りやスタッフ集めを行うのはマネジャーの仕事です。

変革に抵抗はつきもの。これを克服するための啓発や動機付けがリーダーの第3の仕事です。脅したりニンジンをぶらさげるのではなく、人々の琴線に触れ、仲間意識や理想、自尊心を芽生えさせる。リーダーがメンバーを盛り立てることで動き出した変革の進捗を把握し、必要に応じて問題解決を図るのがマネジャーの仕事です。

リーダーが直面するジレンマ

ビジネスリーダーは日々、様々なジレンマに直面します。今、ビジネススクールのエグゼクティブ教育で一番ホットなトピックは「マネジメント・ジレンマ」。経営上のジレンマです。売り上げの拡大を狙うべきか、利益率の改善を図るべきか。長期的成功を目指すのか、短期的成功で株主を満足させるのか。自分でやるか、部下を育てたるために仕事を任せるか――。

こうしたジレンマは永遠になくなりません。完ぺきに解消することもできない。しかも世界のフラット化とともに、ジレンマはますます増大しています。国境を越えたバリューチェーンが1日24時間、365日態勢で稼動している(※3)。その中で成長のチャンスをつかむには様々なジレンマをスピーディーに、かつ正しい意思決定で効果的に解消しなければなりません。

従来のジレンマの多くは、いかに企業価値を高めるかという観点での経済的ジレンマ。しかし現在のビジネスリーダーが直面するジレンマはもっと複雑です。経済的に高い価値を生み出しつつ、倫理的、法律的にも健全な意思決定を行わなければならない。当たり前のことですが、それが当たり前になっていないことは一連の偽装事件を見てもわかります。

高い倫理観と法令順守の意識を持って課題を速やかに解決し、問題を“事件化”しないこと。そのためにも経営知識を高めると同時に、教養を深める必要がある。政治、社会、歴史、文化的多様性に対する関心と理解。特にフラット化が進む今の時代、文化的多様性への深い理解と感度の高さは不可欠です。その上で高いビジョンを持ち、そこから課題をあぶり出すことができるかどうか、正しい意思決定ができるかどうかが持続的成長の鍵を握っています。

ビジョンは予測でも展望でもありません。ビジョンとはデッドラインを伴う夢であり、戦略的意図。独自の強みをベースに時間軸を持って実現を目指し、その結果として競争力を獲得していかなければならない。ビジョンを考える時は「何がやりたいか」と同時に「自分たちにしかできないことは何か」を考える必要があります。

その礎石となるのが企業ミッション。自社の使命、存在意義です。ミッションにしっかりと結びついたビジョンを構築することは、ビジネスリーダーにとって非常に重要な仕事の一つ。それを不退転の決意でやり続けることが大切です。

とはいえリーダーだけが意欲を燃やしても組織を変革に導くことはできません。ビジョンはメンバーのベクトルを一つにまとめ、彼らのエネルギーとコミットメントを引き出すものでなければいけない。そのためにも具体的かつ論理的に納得いくものであり、メンバーがエキサイトし、やる気になれるビジョンであることも重要です。

独自のスタイルを築く
会場全景

好奇心もリーダーにとって大事な資質の1つです。好奇心があるからこそ様々なものを見たり、読んだり、聞いたりしながら外部環境の変化を敏感に察知できる。好奇心が強いからこそ自ら新しいことにチャレンジし、組織を変革へと導くことができる。好奇心は変革の大事な原動力です。

リーダーシップでもう1つ重要なことはリーダーシップと「リーダーシップスタイル」は違うということです。カルロス・ゴーン、ビル・ゲイツ、あるいはスティーブ・ジョブズ。一様に優れたリーダーではありますが、リーダーシップスタイルはそれぞれ違います。誰かの真似をするのではなく、自分自身のリーダーシップスタイルを見つけることが重要です。

皆さんもリーダーとして活躍する使命を担っています。自分自身のリーダーシップスタイルをしっかり見つけてください。そのためには、まず自分を知ること。価値観、趣向、強み。そこから自分なりのスタイルを構築し、自信を持って様々な課題にチャレンジしながらそれを磨き上げていくことが大切です。

次代を担う皆さんに目指していただきたいのは「グローバルリーダーシップ」。世界のフラット化が進み、日本にいても文化的・民族的背景の異なる人と仕事をする機会が増えています。そうした人たちと様々な問題を議論し、コミュニケーションを図り、良好かつ建設的な関係を築けるようになっていただきたい。日本を拠点に活躍していたとしても、世界にネットワークを広げ、多様性をうまく活用して創造性につなげていくこと。そういうチャンスを見つけたら徹底的に活用していくことです。

グローバルなネットワークをどんどん広げ、日本を元気にしていく――それが皆さんのリーダーシップミッションだと思います。ぜひ頑張ってください。

講師紹介

一條和生氏

一橋大学大学院
国際企業戦略研究科教授

一條和生氏


1958年生まれ。82年一橋大学社会学部卒、87年同大学院社会学研究科卒、95年ミシガン大学経営大学院にて博士号取得(経営学)。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専門は、経営組織論・イノベーション・知識創造理論。主な著書に『バリュー経営:知のマネジメント』『ナレッジ・イネーブリング』(ともに東洋経済新報社)など。

脚注

■※1

トーマス・フリードマンが著書『フラット化する世界』(日本経済新聞出版社)で指摘した言葉・概念。グローバル化やITの進展で、世界の経済や社会システムが指揮・統制の垂直的なシステムから、世界の多様な人々の「接続と共同作業」の水平な仕組みへ移行していくことを意味する。

■※2

組織を動かすコミュニケーションで大切なことは5つ。伝えるポイントを絞る。優先順位を明確にする。言葉の多義性を排し、複数の意味に受け取られるような言い方はしない。具体的に何をすればいいのか、アクションベースに落とし込んで話す。そして、何度も繰り返し伝える。「重要なことは簡単に変えないこと。大きな野心を持って課題を見つけ出し、それを不退転の決意でやり続けることが重要」(一條先生)。

■※3

国境を越えたバリューチェーンの事例として、講義ではスペインのアパレルブランド「ZARA」のビジネスモデルをDVDを見せながら解説していただいた。同社は企画から2週間で世界中の店舗に新商品が並ぶ態勢を構築。少量・多品種生産で週2回新商品を出す。生産ラインだけでなく組織全体をフラット化して決裁・意思決定のスピードアップを図っている。
協賛企業:
講座協力:東京21cクラブ