第7回(2007年12月6日開催)

リーダーとしてのキャリアの軸となるのは
モチベーションの自己調整と節目のデザイン

仕事のモチベーションを自分で制御
金井壽宏氏

今日はキャリアとモチベーションをテーマに、キャリアについては「節目」という観点から、モチベーションは「自己調整」をキーワードにお話ししたいと思います。

モチベーションには必ずアップダウンがあります。皆さんも、ここ1週間の仕事に対する自分のモチベーションレベルを振り返ってみてください。どんなにすごい人でも、ずっと高いままということはありません。下がっても「なぜ低いか」「どうすれば取り戻せるか」がわかっているから自分で上げられる――それが、すごい人です。

モチベーションのデイリーな変化を調査(※注1)してみると、ダイナミックな変動プロセスであることがよくわかります。しかも、ほとんどの人がアップダウンの理由を自分で説明できる。すべてに理由があり、それを語る言葉を持っている。これをもう一歩進めれば、モチベーションのアップダウンは「自己調整」可能なはずです。

モチベーションのダイナミックなプロセスを動かしているものは一体何なのか。あまたある理論を整理すると、大きく4つの系統に分類できます。第1の系統は「緊張系」。例えば「このままでは納期が遅れてクライアントに怒られる。それはぜひとも避けたい」と、頑張るパターン。未達成感、危機感、圧力、欠乏感、ハングリー精神もここに含まれます。会社のデスクは未達成の課題を思い出すきっかけの宝庫。出社してデスクに向かうと一気に仕事モードになるというのも一種の緊張系です。

未達成が人を動かすという学説は初期の研究に多く、人間は達成したことより未達成の課題を思い出すことのほうがはるかに多いという研究結果も出ています。でも、私たちを動機づけるのは緊張や未達成感といったネガティブな要素ばかりではありません。やればできる、進む、終わる、楽しいなど、もっとポジティブなものもある。それが第2の系統。夢、目標、達成感、自己実現といった「希望系」です。

緊張系と希望系のどちらがより強く働くかには個人差がありますが、両者の間には相互作用があり、1つのサイクルを形成しています〈下図参照〉。例えば、「このままではまずい」と危機感を持って動き始めると、やっているうちに「何とかなりそうだ」と展望が見えてきて、またやる気が出る。さらに目標を達成したら、より高みを目指したくなって、その未達成感が頑張りの原動力になる。これをうまく回していく鍵が、第3の系統「持論系」です。

図図をクリックで拡大表示します

どんな時に自分は頑張れるのか、どうなると落ち込むのか。そのパターンや志向をつかんで、モチベーションを上げる自分なりのキーワードを持つことが大事――というのが持論系のアプローチ。これはモチベーションのアップダウンを人のせいにしないということでもあります。原因は自分にあると考えれば制御可能。必要な時には高め、時には上手にリラックスしながらモチベーションを自分で維持できる。

とはいえ人間は1人で生きているわけではないので、周囲との人間関係もモチベーションを左右する要因となります。メンバーに恵まれたから頑張れたとか、メンターやロールモデルの存在といった「関係系」が第4の系統です。

さらに今、我々の研究室で注目しているのがモチベーションの「ファウンデーション(土台)」。簡単に言えば、仕事で頑張るための支え。少し長いスパンでモチベーションの波を振り返ってみると、アップダウンの要因は仕事の世界だけに閉じないはずです。病気をした、失恋した、親が入院した、等々。健康の問題やプライベートライフが充実していないと緊張系・希望系のサイクルもうまく回っていきません。

リーダーに求められる「持論」の幅

経営学には「持論」でやってはいけない分野もありますが、モチベーションやリーダーシップといった組織行動学は、自分の経験や感覚をベースに学びを増やしていくというアプローチが最も実践的。多彩な理論や優れた経営者の持論は、そうした学びの貴重な原料となります。

例えば、東京大学大学院の市川伸一教授による学習動機の研究(※注2)。そこで挙がったキーワードもワークモチベーションの持論を獲得する上で非常に有用です。充実、鍛錬、実用、関係性、ライバルの存在、ご褒美――どれが一番自分に効くかと考えれば、モチベーションを自己調整するヒントになるはず。自分へのご褒美(セルフリワード)の効用についてはスタンフォード大学のアルバート・バンデューラ教授による理論的裏付けもある。数ある理論をくまなく学ぶことはできなくても、自分の経験にフィットする理論から「こんな見方もあったのか」という発見をし、自分の暗黙知を言語化していくことが大切です。

さらにリーダーには自分を鼓舞する持論だけでなく、十人十色のモチベーションを理解し、調整のサポートができるだけの幅広い持論が必要です。ジャック・ウェルチはリーダーシップ持論として4つのキーワードを挙げていますが(※注3)、最初の1つは「Energy」。リーダーは元気であれ、と。2番目が「Energize」。自分だけでなく周囲の人を元気にする能力も不可欠。1人ひとりを見て、その人にあった元気づけ、動機づけができるよう学びを広げ、豊かな持論を獲得することが重要です。

キャリアの節目は自分でデザインする

モチベーションは山あり谷ありのダイナミックなプロセスですが、もう少し長い時間幅で見ると、そこにもアップダウンがあるはずです。皆さんも、これまでのキャリアを振り返って、アップダウンしたポイントとその要因を考えてみてください。中でも自分が「一皮むけた」と思う経験を3―4つ挙げ、その理由を考えてみてください。

一皮むけた、成長できた経験のうち「自分が頑張った」ことはモチベーション持論の素材に、ある程度キャリアを積んだ上で「周囲と一緒になし遂げた」経験ならリーダーシップ持論を考える素材になります。

モチベーションの問題はかなり深いレベルでキャリアにかかわってきますが、キャリアで重要なのは節目におけるデザイン。節目だけはよく考えて、自分で選びとったという自覚を持つことが大切です。

例えば、研究の仕事がしたくて就職したのに、昇進して人に動いてもらう仕事が多くなり、モチベーションが下がったという時は、持論でモチベーションを上げるのではなく、キャリアの節目として別の視点でよく考えたほうがいい。その際のキーワードは「夢」。節目だからこそ自分が本当にやりたかったことは何かと考え、夢を取り戻すことが次のステージへと進むエンジンになるからです。

キャリアの節目に自分の夢を思い出し、よく考えて選択をすること。あとは日々のモチベーションを自己調整しながら頑張る。そうやって頑張っていれば、また次のチャンスや節目が訪れる。持論と節目デザインを軸にリーダーとしてのキャリアを自分の手で開いていただきたいと思います。

講師紹介

金井壽宏氏

神戸大学大学院
経営学研究所教授

金井壽宏氏


1954年神戸生まれ。78年京都大学教育学部卒業。89年マサチューセッツ工科大学Ph.D(経営学)。92年神戸大学博士(経営学)。現在、神戸大学大学院経営学研究所教授。リーダーシップ、ネットワーキング、モチベーション、キャリアなど、経営学の中でも人間の問題に深くかかわるトピックを主な研究テーマとする。著書に『働くひとのためのキャリア・デザイン』(PHP新書)、『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版)、『リーダーシップ入門』(日経文庫)など多数。

脚注

■※1

金井ゼミ卒業生で株式会社AWGの佐藤栄哲氏との共同研究。調査対象者は会社員106名。2週間に渡って終業時にその日のモチベーションレベルを3段階で自己評価してもらったもの。

■※2

入学したばかりの大学生に「あなたはなぜ勉強をしてきたのか?」と問いかけると、各自の理由(=持論)が返ってくる。つまり、スタディーモチベーションの持論をもっている。詳しくは市川伸一氏の『学ぶ意欲の心理学』(PHP新書)参照。

■※3

GEを最強企業へと導いたジャック・ウェルチがリーダーの条件として挙げているのは「Energy」「Energize」「Edge」「Execute」の4E。詳しくは『ジャック・ウェルチ リーダーシップ4つの条件』(ダイヤモンド社)参照。
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講座協力:東京21cクラブ