第1回(2007年6月5日開催

次世代リーダーに求められる視野と
スピード感を「ロジカルシンキング」で磨く

私の専門は事業戦略です。一言で言うと「お客様に価値あるものやサービスを提供してどうもうけるか」を考えるのが事業戦略。その基礎となるのがロジカルシンキングです。事業戦略に限らず、ビジネスのあらゆる場面、また個人のキャリア戦略においても、いかに論理的に考えるかが成否の鍵を握っています。

ルールの変化、見えていますか?

事業戦略もキャリア戦略も、まずは今、世の中がどうなっているかを押さえておくことが大切です。情報通信技術(ICT)の高度化、中国・インドの急速な台頭、地球の温暖化――。こうして挙げていくと、どれも世界共通の事象・課題であることがわかります。

ICTの高度化によって世界は急速にフラット化しています。一日二十四時間、常にどこかで誰かが働いている。私たちが寝ている間も世の中は変化し、今春の世界同時株安のように局所の動きが瞬く間に世界中に広がっていく。国境・業界といった境界が薄れ、価格も人材も世界レベルでの競争力が求められる。Web2・0ともいわれる潮流の中、世界中が共通のルールで動き始めている――。つまり、ビジネスを取り巻くルールがすっかり変わったということ。

こうした環境の変化を正しくつかむには、世の中の動きをただ追いかけるだけでなく、「その背景には何があるのか」「今後、何が起こりそうか」「この変化は誰に、あるいは自社・自分にどんな意味を持つのか」と掘り下げ、事実と背景と意味を常にセットで考えることが重要です。

全体観をつかみ、勘所に集中する
ユーモアたっぷりにテンポよく進む石倉先生の講義。質問も飛び交い活気のある時間となった

変化の背景や意味・影響は一つではないはずです。さまざまな側面から、できるだけ広く見ること。そこから“全体観”をつかむことが大切です。例えばある大手コンピュータ企業A社がネット広告会社を買収したというニュース。背景には新興のポータルサイト企業B社に対抗する意図もあるでしょう。Web2・0時代の新たな市場に参入するためかもしれないし、A社の主力事業が伸び悩んでいるという事情も考えられます。

この三点は、ビジネス環境を分析する「3C」とも符合します。B社は「競合」、新たな市場は「顧客」、主力事業の軟調は「自社」理由。新聞にも解説記事はありますが、うのみにするのではなく、ぜひ自分で考えてみてください。

全体観をつかむ際に有効なのが「MECE」という考え方です。これは「重なりがなく、漏れがない」という意味で、前述の「3C」もMECE。3Cを押さえておけば、自社を取り巻く課題の全体をほぼカバーできます。

マーケティングの「4P」、経営戦略の「バリューチェーン」も一種のMECE。事実・背景・意味をセットで考え、きちんと全体が見えているかどうかをMECEでチェックする。新聞を読みながらこれを毎日、最低でも週五日やるとかなり力がつきます。

全体がつかめたら、次は「どこが一番肝心か」を考える。やみくもに動いても事業は成功しません。とにかく切り捨てられるものはどんどん切り捨てる。これが事業戦略を考えるときのコツの一つ。広くとらえた上で“勘所”を極め、そこに思考と力を集中させることが大切です。

強みを生かした戦略を立てる
講義のあとには懇親会が開かれ、受講生が積極的にコミュニケーションする様子が見られた。

まずは外的環境の変化をしっかりつかむこと。その上で、どんな戦略が有効かを考える。鍵となるのは自社・自分の“強み”です。弱みを補うのではなく、強みや特色が生きる戦略を考える。強み分析には「SWOT」などの手法がありますが、客観的なデータ・実績で立証可能な強みであることが重要です。

何が強みになるかは勝負する場によっても異なります。自社・自分の強みを生かせそうな場所やチャンスの兆しをいち早く見つけ、市場のニーズにスピーディーに合致させることも必要。環境分析でつかんだ潮流や全体観がここで生きてきます。

これからの時代は「何でもやります」「そこそこできます」では選ばれません。人も企業も、他と差別化できる強みを持ち、「何がユニークか」を明確に語れるようにしておくことが大事。何が今までと違うのか、どこが他社と違うのか。市場のニーズは絶えず変化していますから、次の一手を考えつつ、常に強みを更新しておくことも大切です。

動きながら考え、軌道修正する

フラット化した世界は二十四時間体制で常に変化しています。環境の変化があまりにも速くドラスチックなため、実際にやってみなければわからないことが多いのも事実。時間をかけて詳細な戦略を練るより、中長期的なビジョンを持ちつつ、常に積極的に実行する。好機を逃さないようスピード感を持って意思決定を行い、動きながら考え、必要に応じて軌道修正していく機動力が必要です。

ロジカルシンキングや問題解決のトレーニングは頻度が肝心。繰り返しトレーニングし、場数を踏めば必ず上達します。変化の時代だからこそ信念を持って行動を起こし、世の中の動きに合わせて柔軟に対応する謙虚さ、決断力も求められる。スピード、意思決定、実行力。次世代リーダーにはこの三要素が不可欠です。

講師紹介

一橋大学大学院
国際企業戦略研究科教授

石倉洋子氏

上智大学外国語学部卒。フリーの通訳を経て、米国バージニア大学大学院にてMBA、ハーバード・ビジネススクールにてDBA(経営学博士号)取得。帰国後マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルティングに従事し、青山学院大学国際政治経済学部教授を経て2000年より現職。近著に『世界級キャリアのつくり方』(共著/東洋経済新報社)など。

キーワード解説

■3C分析

企業が自社のビジネス戦略を考えるのに有効なフレームワーク(枠組み)。3Cとは顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)を指し、こうした全体像を分析・考察して戦略の方向性を決める。

■MECE

「Mutually exclusive, collectively exhaustive」の頭文字をとったもので、「ミーシー」と読む。論理や戦略に見落としやダブりがないかを確認し、その精度を上げる論理的思考法。「5W1H」「過去・現在・未来」などで考えることが有効で、MECEの手法のひとつ。

■4P

ビジネスを成功させるためのマーケティング手法。製品(Product)、価格(Price)、場所・流通チャネル(Place)、広告・販促(Promotion)の四つのPを常に考えながら事業展開を図る。

■バリューチェーン

製品が作られ消費者に届くまでのプロセスを、各工程で付加価値が生み出される“価値の連鎖”ととらえる考え方。

■SWOT分析

事業戦略を検討する際に用いられる主な手法で、強み(Strength)、弱み(Weakness)、チャンス(Opportunities)、脅威・阻害要因(Threats)の四点から事業環境を分析する。個人のキャリア戦略にも有効。
協賛企業:
講座協力:東京21cクラブ